古酒は沖縄の宝と語った尚順男爵

「古酒は単に沖縄の銘産で片付けては勿体ない。どこから見ても沖縄の宝の一つだ」

琉球国の最後の国王である尚泰の四男、尚順男爵(1873~1945年)の言葉です。尚順男爵は、食文化から芸術、芸能まで幅広い鑑賞眼を持つ文化人として知られ、その言葉は「松山王子遺稿集」にまとめられていますが、冒頭の一文はその中からの引用です。

尚順男爵は、泡盛古酒の素晴らしさを戦前にすでに語っていたのです。貴族院議員を務め、琉球新報、沖縄銀行の創立者とも言われる人ですから、その生活もかなり高貴なものだったことは間違いなく、泡盛古酒に関しても、相当な年代物を持っている人たちと交流を重ね、それぞれの家の古酒を持ち寄って飲み比べる会を楽しみにしていたことが、遺稿集からも読み取れます。

どこかの名家に特上の古酒があるという話を聞くと訪ねていって購入したり、全部が無理なら少しだけでも分けてもらい、そういう年代物の古酒を集めては壷に詰めて親酒を造る。それに少しずつ若い酒を仕次ぎしながら、量を増やしていくという手法を、文章で残しているのも尚順男爵です。

それだけ、泡盛古酒の味わいに魅了されていたことが、遺稿集を読むと伝わってきます。そして、男爵たちが飲んでいたであろう100年以上の古酒が、いかなる味わいだったのかつい想像してしまいます。残念ながら、戦争でそれらを失った沖縄では味わうことはできませんが、今手元にある泡盛が、尚順男爵のいう「沖縄の宝のひとつ」に育つ日を夢見て、古酒造りのバトンを次世代へつないでいきたいものです。