黒麹の源流は沖縄

米や麦などの穀物を原料にお酒を造る場合、まず最初に行わなければいけないことは、その原料を糖化させることです。ウイスキーなど洋酒の場合は、麦芽を使って糖化しますが、日本を含むアジア地域では、基本的に「麹菌」を使ってその作業を進めていきます。

ひと口に「麹菌」といっても、その種類はさまざま。タイや韓国、中国の東南アジアではクモノスカビやケカビなどを使い、日本では古くから黄麹菌を使っていました。

しかし、泡盛は伝統的に「黒麹菌」を使っているのが大きな特徴です。そして、黒麹菌を使って酒造りを行っている地域は、世界的に見ても珍しいのです。 中国福健省には「烏衣紅曲(ういこうきょく)」という黒麹菌と紅麹菌、酵母の混合培養麹がありますが、黒麹菌のみを使って酒造りを行ってきたところは、世界広しといえど、現在分かっているのは沖縄だけなのです。

納豆など、世界各地の発酵食品の研究者で知られる東京農業大学の小泉武夫先生は、泡盛にも造詣の深い方ですが、小泉先生が、八重山の黒島で聞き取り調査を行った際、集落のおばあさんから次のような話を聞いたそうです。
「大きな桑の木には、幹のあちらこちらに黒いすすのようなカビが生えている。昔はこれを(麹菌として)使って酒を造っていた」

後に沖縄本島で桑の木からこのカビを採集して調べたところ、それはまさに泡盛造りに使われている黒麹菌「アスペルギルス・アワモリ」だったと小泉先生は語っていらっしゃいました。
先人たちの知恵には感服するばかりですが、このことからも、黒麹菌を使った酒造りは古くから、そして沖縄各地で行われていたことが推測できます。

しかし、 この黒麹菌の存在が研究者によって明らかにされたのはそれほど古くなく、琉球王国が沖縄県となった明治時代のこと。1904(明治34)年、乾環氏、宇佐美桂一郎氏が泡盛の製造工程を調査し、発見した黒麹菌にウサミ菌、イヌイ菌という名を付けて発表したのがきっかけでした。

明治時代後半になると、それまで黄麹菌を使っていた鹿児島の焼酎メーカーも、腐敗に強い黒麹菌を使って酒造りを行うようになり、黒麹菌の使用は九州にも広がっていきます。その後、黒麹菌の突然変異である白麹菌が発見され、九州以北の焼酎造りには、白麹菌が使われるようになりました。

現在、九州の焼酎メーカーが原点回帰という謳い文句で、黒麹菌を使った商品なども生産していますが、その源流は、沖縄にあるのです。