県内でも名高い名水「金武大川」がある地の泡盛は
地域の人たちに長年愛され続ける芳醇な味わい
沖縄県北部に位置する金武町は、深い山々や清らかな川といった自然に恵まれ、古くから県内でも有数の水どころとして知られています。とりわけ並里集落にある「金武大川(きんうっかがー)」は集落の共同井泉として人々の暮らしに欠かせない湧水。干ばつのときにも枯れることのない湧き水を利用して、この地域では古くから水田で育つ田芋(ターンム)や米の栽培が盛んに行われています。町内で1949年から操業している金武酒造では、金武大川に代表される土地の名水で仕込んだ泡盛の製造を続け、地域の人々にとって欠かせない存在となっています。
創業時に建てられた第1工場では、今も伝統的な製法で泡盛がつくられています。銘柄は『龍』のみというシンプルさですが、アルコール度数20度と30度の一般酒のほか、20年以上貯蔵した度数の高い古酒やブレンド古酒など、バリエーションは豊富。金武酒造では酒の質にこだわり、50年、100年先までおいしく飲める本物の古酒を追求し、丁寧な手作業を続けています。現在市販されている古酒のなかでも、町内の鍾乳洞で長期熟成させたものは、他では味わえないまろやかさで高い評価を得ています。
現在、製造管理を任されているのは創業者の孫にあたる奥間尚利さん。良質の泡盛を生み出すために、発酵の様子やもろみの香りなどを確認しながら毎日2回の撹拌作業を行っています。尚利さんは「祖父が立ち上げて祖母に引き継ぎ、父へと受け渡されてきた家業。私は奥間家の3男ですが、中学生の頃から自分が後を継ぐと固く心に決めていました」と言います。その意志は強く、東京農業大学に進学して発酵技術を学んだあと、鹿児島県などの焼酎メーカー勤務を経て沖縄に戻り、泡盛づくりに情熱を注いでいます。
第1工場でつくられた泡盛は、2001年に町内に新設した第2工場に運ばれ、ステンレスタンクで長期熟成させます。芳醇で風味豊かな古酒に育つよう、旨味成分をしっかり残してつくられた泡盛は、ずらりと並んだタンクの中で静かに時を重ねています。尚利さんは「飲む人に喜ばれる、こだわりの泡盛をつくりたい。今後は、出来上がった泡盛が3年後、5年後にどんな古酒に育っていくかを見極める力をつけたいです。そのために利き酒の腕を上げたり、泡盛の旨味を引き出す成分の研究に力を入れていきます」と熱を込めて話します。
工場の壁のてっぺんに書かれているのは銘柄名の『龍』。創業者の奥間慶幸さんが辰年だったことと、縁起のいい「昇り龍」からの命名だそうです。奇しくも三代目の尚登さんも辰年生まれ。さらに尚利さんの息子さんも辰年に誕生したとのことです。泡盛『龍』は古くから地元の人々に愛飲されていますが、面白いことに集落ごとに好みがくっきりと分かれるそう。マイルドな飲み口の25度を選ぶ地区と、飲みごたえのある30度が好まれるエリアに二分されるというから、どちらの泡盛も試してみたくなりますね。
【酒造所名】有限会社金武酒造
【住所】金武町字金武4823-1
【電話番号】098-968-2438
【URL】http://www.kinsyuzo-tatsu.com