普段の日もハレの日も、地元のシマ酒を。
創業嘉永元年、北谷町唯一の老舗酒造所のぶれない泡盛づくり


沖縄本島中部の北谷町(ちゃたんちょう)。米軍基地があることからアメリカ文化が色濃く残るこの場所は、おしゃれなショッピング施設や県内有数のダイビングスポットなど、若者や観光客に人気のエリアです。北谷長老酒造工場は、繁華街から少し離れた、昔ながらの住宅が立ち並ぶ集落の細い坂道の途中にあります。1848年(嘉永元年)首里赤田町に創業した玉那覇酒造が前身という歴史ある酒造所で、1910年に北谷町の桑江地区に移転。しかし戦後、米軍基地用地として収容されたため1940年に現在の場所で操業を再開しました。

この酒造所でつくっているのは、玉那覇酒造時代からの銘柄である一般酒「一本松」と、社名にもなっている「北谷長老」シリーズ(2006年に北谷長老酒造に社名を変更)。特に長期熟成した北谷長老は、そのおいしさが口コミで話題となり、全国的にも知られる銘酒となりました。「うちの泡盛はよく地元で飲まれていて、地元の人たちがいろいろ発信してくれていると感じます。ありがたいですよね」と話すのは工場長の知念秀人さん。現在の従業員は7名。知念さんはその中心となり、伝統ある泡盛づくりに力を注いでいます。

北谷長老酒造工場が何より大切にしているのは、味がぶれないこと。「うちの泡盛を飲んでいる人たちは、少しでも味が変わったらすぐに気がつくと思うんですよ。杜氏としての僕の役割は、今の味を残し、引き継いでいくこと」。玉那覇徹社長や先輩方からつくりを教わった知念さんが、特に口すっぱく言われたのが“温度管理”と“スピード。例えば冬仕込みの場合、蒸した米に黒麹菌をまいたものをドラム(洗米や米を蒸す機械)から麹棚に移す際、時間がかかると温度が下がって菌の元気がなくなり、それが味に大きく影響するといいます。

先代からの“つくり”を守り、ちょっとの温度差やタイミングに気を配る。大量生産はできませんが、こうして手間も愛情もかけてつくられる泡盛は、地域の人にとっても大切なシマ酒として根付いています。「工場の隣にある商店から、一本松を買ってでてくるお客さんを毎日見かけるんですよ。それもありがたいのに、ある地元の人から、『普段は一本松だけど、今日は給料日だから北谷長老飲むよ!』と言われて(笑)。それがすごく嬉しかったですね」

 

「単純に『うまい!』って言ってもらえるのが一番の活力です」と語るのは玉那覇社長。「そのために、クォリティを守って、きちんと供給していく…いろいろ世間は変わってきているけど、うちの泡盛は純粋に引き継いだまま、変わらなくていいんじゃないかなと思います」。少量ながら高い品質の泡盛をつくり、古酒をつくる。酒づくりへのぶれない姿勢が、地元のみならず多くの泡盛ファンからも愛される理由なのかもしれません。(写真中央が玉那覇社長、右が知念工場長)

 

 

【酒造所名】北谷長老酒造工場株式会社
【住所】北谷長字吉原63
【電話番号】098-936-1239
【URL】https://chatan-chourou.co.jp/