「たくさんの人に泡盛を知ってもらい、飲んでほしい」
樽貯蔵泡盛の元祖である老舗酒造所がチャレンジし続ける理由
神村酒造は1882年(明治15年)、神村盛真氏によって那覇市繁多川の地に創業した歴史ある酒造所。戦後は琉球民政府財政部直属の官営5工場のひとつでしたが1949年に民営化し、那覇市松川で泡盛づくりを行っていました。現在のうるま市石川へ移転したのは、1999年のこと。敷地内にはたくさんの緑があふれ、のどかな空気が流れています。「造り手が気持ちよく感じる場所でもの造りをしたいという思いがあって、いろいろな場所をまわってここに決めたのです」と、専務の中里迅志(はやし)さんが教えてくれました。
神村酒造を代表する銘柄といえば、オーク樽で熟成させた泡盛「暖流」。沖縄戦で工場も貯蔵していた古酒も全て失くなり、泡盛を造ろうにも原料や設備がままならなかった戦後の沖縄は、ウィスキーなどの洋酒文化が台頭し泡盛は下火の時代。3代目・神村盛英氏は泡盛を造る傍ら、あるウィスキーメーカーのお仕事も兼任していました。 「本当は泡盛を造りたいのに、内心はつらかったと思います」と中里さん。しかしこの経験から「飲まれているウィスキーと飲ませたい泡盛をつなぐ泡盛を造りたい」というアイデアが生まれます。
1960年代初期からオーク樽に泡盛を貯蔵しはじめ、構想から10年が経った1968年に発売された琥珀色の泡盛「暖流」は、当時のウィスキー好きの人からも評判となりました。 暖流のこだわりは、オーク樽で3年以上熟成させた泡盛をベースに、独自のレシピでブレンドすることです。樽貯蔵はタンク貯蔵と比べ手間暇はかかりますが、樽ごとに個性豊かな風味があり様々な味わいを生みます。「泡盛を飲んだことがない人たちにも飲んでもらいたい。」という暖流の使命を大切にしながら生産を続け、50年もの間、愛されるブランドへと成長しました。
神村酒造のチャレンジ精神は、現在も脈々と受け継がれています。中里さん(写真)が手に持っている「芳醇浪漫(ほうじゅんろまん)」は、うるま市の企業・バイオジェット社と共同開発したオリジナル酵母「芳醇酵母」で仕込んだ泡盛。「古酒を造るには3年以上の時間がかかり、その分値段も高くなる。そのため熟成させる時間を短くしても、古酒の味わいのある泡盛をつくるために酵母から開発しました。これは1年未満の新酒ですがとても甘い香りがします。」 また、2017年からは「春、夏、秋、冬の季節泡盛シリーズ」を販売。旬の食材を使った料理にあう味わいに数種類の泡盛をブレンドし、飲み方と一緒に食べ合わせも提案しています。
神村酒造では工場見学を積極的に受け入れているだけでなく、施設内の「地下蔵」で泡盛とお客様のメッセージを一緒に預かるサービスも行っています。タイムカプセルのようなものなので、5年後10年後の満期に、思い出と共に熟成した古酒を楽しむことができます。伝統的な泡盛文化も大切にしながら、チャレンジも忘れない。神村酒造の根底にあるのは「泡盛をたくさんの人に飲んでもらいたい」というシンプルな情熱です。
【酒造所名】有限会社神村酒造
【住所】うるま市石川嘉手苅570
【電話番号】098-964-7628
【URL】https://kamimura-shuzo.co.jp