戦前の佇まいを今に残す貴重な名護の小さな酒蔵で
手間暇かけて生まれる香り高い「國華」の味


沖縄本島北部・名護市の繁華街から少し離れたところにある静かな集落。その中にひっそりと佇む趣深い赤瓦屋根の建物が津嘉山酒造所です。「かなり小規模な酒造所なので、名護市民でも知らない人がいますよ」と話すのは、杜氏の秋村英和さん。実は、この酒造所で働いているのは、工場長の幸喜行有さんと秋村さんの二人のみ。そして泡盛のつくりの部分は、杜氏である秋村さんがほぼ一人で担当しているそうです。

1924年(大正13年)津嘉山朝保氏が創業し、工場兼住宅である木造瓦屋根の建物が完成したのが1928年(昭和3年)のこと。先の大戦で名護の中心部にある建物のほとんどが破壊されましたが、幸運にも戦禍を逃れた津嘉山酒造所は、県内で唯一戦前の姿をとどめています。「そんな古い建物で現在も泡盛をつくっていることが貴重」と秋村さん。2009年6月30日に国の重要文化財に指定され、歴史的価値の高い建物を後世へ残そうと、2011年から約7年の歳月をかけ大掛かりな保存・修理工事が行われました。

そんな歴史ある酒造所でつくられている泡盛が「國華(こっか)」です。ラインナップは43度と30度の一般酒と、3年以上甕で熟成させた古酒の3種類。「泡盛らしい泡盛なので、これを基準に自分の好みの泡盛を探してみてもいいかもしれない。あと、うちの古酒はメープルシロップのような甘い香りがするんですけど、いい意味でそれぞれ味が違います。貯蔵している甕ごとに個性があって、僕たちは味をコントロールできない(笑)」。古酒のラベルには甕番号が記載されており、好みの甕番号を指定して購入するお客さんもいるそうです。

辛味と甘味のバランスがよい國華は、2009年には泡盛鑑評会で県知事賞を受賞するなど、その味は高く評価されています。「よく『酒造所のこだわりは?』ときかれるんですが、うち、ないんです(笑)」と秋村さん。「柱が黒くなっているのは黒麹菌の影響ですが、実は建物の中に昔の黒麹菌が残っているんじゃないかと言われています。地面にもいるみたいで。多分、原材料や手間暇はほとんど他の酒造所と変わらない。不思議なんですけど、この蔵の中でつくるから、國華の味になるんです」

 

秋村さんたちは酒づくりの合間をぬいながら、訪れる見学者にこの酒造所のことを丁寧に案内します。泡盛のつくりかた、当時の沖縄の人の暮らしぶりや働きぶり、この酒造所がたどった数奇な歴史など。「ありがたいことに、みんな『ここを頑張って残すんだよ』と応援してくれるんですよ」。時代の波にのまれ一時休業に追い込まれながらも、地元の声援に支えられ醸造を再開し、今日にいたる津嘉山酒造。建物に宿る記憶とともに、時代を超えて愛される泡盛をつくり続けています。(写真左は工場長の幸喜さん、右が杜氏の秋村さん)

 

 

【酒造所名】合資会社津嘉山酒造所
【住所】名護市大中1-14-6
【電話番号】0980-52-2070
【URL】https://www.awamori-kokka.co.jp