伝統的な製法にこだわる与那国島最古の酒造所は
新たな商品開発や泡盛の情報発信にも力を注ぐ


与那国島の中心的集落・祖納(そない)を一望できる高台「ティンダハナタ」の頂上近くにある崎元酒造所。1927年に17名の島人と共同でつくった酒造所がその前身という、島で一番の歴史がある泡盛メーカーです。1971年に崎元酒造所として独立し、現在代表を務める崎元俊男さんの母・初さんが杜氏として、代表銘柄『与那国』を中心に製造を続けてきました。2006年には現在の地に工場を移転し、伝統的な泡盛や古酒のほか、長命草焼酎など、さまざまな商品を生み出しています。

広々とした工場には、一度に1トンの米を蒸すことができる新たな設備を整えました。以前の工場では気温が高い夏場は米麹やもろみの温度管理が難しく、10月から翌年5月にかけての期間しか泡盛をつくれませんでしたが、移転後は温度管理ができる機械の導入で1年中泡盛づくりが可能になったそうです。生産量が向上したことから、古酒用に貯蔵できる量も増加。写真左奥に見えるステンレス製のタンクで熟成させ、今では12年古酒も出荷できるようになりました。

新工場では機能的な設備と、こだわりの伝統的な地釜蒸留器を併用して泡盛をつくっています。バーナーの火で直接加熱して蒸留した原酒は独自の風味と味わいがあり、与那国島ならではのアルコール度数60度の花酒をはじめとする多彩な泡盛が製造されています。崎元酒造所自慢の銘柄のひとつが、にごり泡盛の『海波(かいは)』。これは蒸留の初期に出てくる度数の高い原酒に硬度の高い水をブレンドすると白濁する性質を利用したもので、口当たりがよく、コクのある飲み口で人気が高まっています。

代表の崎元俊男さんは、花酒の文化について次のように教えてくれました。「かつて与那国島では亡くなった人を火葬せず、お墓に埋葬していましたが、その際、遺体と一緒に花酒をお墓に入れる習慣がありました。7年後、遺骨を洗う洗骨という儀式を行う時、遺骨を清めるために、お墓に入れておいた花酒が使われていたんです。儀式の最後には遺骨に花酒をかけて焼き、遺灰にして、再びお墓に入れていました」。花酒は飲んで楽しむだけのお酒ではなく、与那国島の人にとって暮らしに欠かせない特別な存在なのです。

 

工場隣のショップでは、崎元酒造所の全泡盛が購入できます。与那国島で日常的に食されている長命草を使った『長命草焼酎』や、地釜蒸留の際にお鍋にできた焦げの香ばしさを生かした、その名も『おこげ』など、ここでしかつくれないユニークな新商品も次々と誕生。与那国町観光協会の会長も務める崎元さんは、近年、増加している海外からの観光客にもっと泡盛を知ってもらうため、5ヵ国語に対応した動画を作成するなど、先進的な取り組みも積極的に行っています。

 

 

【酒造所名】合名会社崎元酒造所
【住所】与那国町字与那国2329
【電話番号】0980-87-2417
【URL】https://www.sakimotoshuzo.com