たったひとつのおむすびが生んだ新しい酒
女性社長のアイデアを「聡明な魂」で実現
明るく清潔で華やかな雰囲気のある、宮の華。宮古島から伊良部大橋を渡った伊良部島に位置するこの酒造所では、お揃いのピンクのTシャツを着た従業員がてきぱきと働いており、工場のイメージとはずいぶんかけ離れて清々しさがあります。こういった姿勢は、「すべて先代から受け継がれてきたもの」だと、下地さおり社長は語ります。「小さくてもいいから、人のこころにゆっくりと咲き続ける華のようになりたい」という想いから、1948年に創業され、地元に根ざした酒造りを行ってきました。
下地社長が就任したのは、2004年のこと。二代目である父の下地盛良氏が逝去したためでした。突然の余命宣告だったということもあり、時間のない中で父から酒造りに対する想いを吸収しましたが、不安や恐怖と戦いながら社長職に就き、がむしゃらに切り盛りしてきました。そんな時に県外の農業指導者の方からいただいたおむすびが、経営者としての運命を変えます。「とにかくびっくりするくらい美味しくて、このお米でお酒が作りたいと思ったんです」。それが、熊本県産の無農薬米「ひのひかり」でした。
泡盛は基本的にタイ米を使用します。というのも、国産米は粘り気があって泡盛作りには向いていないからです。そのため、従業員からは国産米で酒造りをすることには大反対されたそうです。しかし、下地社長自身がおむすびを握ってふるまい、その熱意を伝え続けたところ、「じゃあ仕方ないからやってみよう」ということで始まりました。そして、苦労しながら開発して出来上がったのが「うでぃさんの酒」。方言で“喜びの酒”という意味を持つのも、宮の華らしい心がこもったネーミングといえます。
開発に取り組んだ山原作栄工場長は「苦労しましたよ」と笑いますが、「酒造りは自然の恩恵をいただくので、あくまでも私たちはもろみのお手伝いをするだけ。それが形になったのが、国産米の泡盛です」と語ります。二代目が商標登録していたという「通り池」の名を持つ古酒から、「宮古島まもる君まるこちゃん」のミニボトルセットなどのユニークな商品まで取り揃えていますが、酒造り自体は一般酒と3年以上寝かせた古酒の2種類のみにこだわっています。
下地社長は二代目から「聡明な魂をもって酒造りをしなさい」と教えられたと言います。「聡明な魂というものがどういうものなのかは難しいですが、お客様や縁のあった方と心をつなげ、その魂を大切にするということを意識しています」と言う下地社長の後に続くように、「お酒を介して人と人をつなげ、記憶に残るお酒を提供していきたいですね」と山原工場長も語ります。酒造所の華やかな雰囲気は、見た目ではなくその精神性からにじみ出たものなのかもしれません。
【酒造所名】株式会社宮の華
【住所】宮古島市伊良部字仲地158-1
【電話番号】0980-78-3008
【URL】https://www.miyanohana.com